交通事故ウラ話

1章:負うもの・失うもの
2章:事故発生時のこと
3章:事故後のこと
4章:自動車保険のこと
5章:事故防止のこと

4章:自動車保険のこと - 元販売員が業界のウラを暴く?!-

自動車保険のこと - 元販売員が業界のウラを暴く?!-

事故にあって始めてわかる自動車保険のありがたみ。「どれも同じだから安いのでいい」と適当に決めていると後で大変なことに…。ではどう選べばいいの? 保険会社のパンフレットには書いていないこと、ぶっちゃけた話を聞きたい。そこで自動車保険に詳しい業界人のAさんに、業界裏話も含めて、自動車保険の本当のところを聞いてみました。

どんな保険に入るべき?

編集部:いきなりですが、どんな自動車保険に入るべきなんでしょうか。補償や特約がいっぱいあってわかりません。

Aさん:その前に、自動車保険の基本はわかっていますか? まず、日本では一般的に、自動車保険は「車」に掛ける保険です。そのクルマに乗っていたときに起こった事故が補償の対象となるんです。最近では「ドライバー保険」と呼ばれる人に掛ける保険もありますが。

そして、これから話す自動車保険というのは「任意保険」のことです。自動車保険には強制加入の「自賠責保険」もありますが、これは補償額が最低限であるため、備えとしてはあまりにも小さい。事故は運転の上手い下手関係なく、誰にでも起こり得ること。そのとき、どれぐらいの損害が発生するかなんて誰にも予測ができない。だから、「任意保険」に加入する必要があるんです。今、日本では8割程度の方が加入しています。

編集部:逆に任意保険に入っていない人が2割もいるのが怖いですね! では「任意保険」の話ということで改めて聞きますが、どんな保険に入るべきですか?

Aさん:絶対に入るべきなのは「対人賠償保険」「対物賠償保険」。しかも両方無制限にするのが基本中の基本! どんな事故にあうかわからないんですから。たとえば相手をケガさせて深刻な後遺症が残った場合。治療費だけでなく収入補償や家の改造費やらで、それこそ数億円の話になりますよ。払えなければあらゆる資産が差し押さえられて無一文に…。ケチって上限を設けたところで、年間の保険料はたかだか数千円しか変わらないんです。もう一度言いますが対人・対物は無制限が基本!

編集部:なるほど!それ以外で入るべきなのは?

Aさん:対人・対物は相手がケガ・死亡したときのための補償。逆に自分がケガ・死亡したときのための補償も必要です。そのための保険は2つ。「搭乗者傷害保険」「人身傷害補償」です。

編集部:2つの違いは何かあるんですか?

Aさん:どちらもクルマに乗っている人すべてのケガ・死亡の損害を補償するという内容は同じ。「搭乗者傷害保険」はケガの部位・症状に応じて決まった額を払うもの(入院・通院日数に応じて支払うパターンもあります)、「人身傷害補償」は実際の損害に応じた額を支払うものという違いがあります。

編集部:それじゃ、「人身傷害補償」にだけ入っていればいいんですか?

Aさん:もちろんそれでもOK。さらに「搭乗者傷害保険」にも入ればダブルで補償を得られます。「搭乗者傷害保険」の年間保険料は5000円程度ですから、安心を求める人は付けておいて損はないと思いますよ。

編集部:対人・対物は無制限が基本ということでしたが、「搭乗者傷害保険」「人身傷害補償」はいくらに設定すべきですか?

Aさん:結論から言うと目安はありません。搭乗者傷害保険の場合は、「死亡の場合1,000万円」と設定することが多いですが、人身傷害補償にも入るなら、そんなに要らないように思います。

一方、人身傷害補償は、誰がクルマに乗るのかで必要額が変わります。死亡時の必要額も十分な生命保険に入っていればゼロでもいいわけですし。ちなみに人身傷害補償にも「無制限」の設定があります。

編集部:なるほど。自分に合った設定額を、保険会社の方などに相談しながら決めるのがベストですね。あとはどんな保険があるんですか?

Aさん:自分のクルマの故障や盗難などの損害を補償する「車両保険」ですね。壊れたら即廃車でいい、というつもりなら入らないという選択肢もありますが、大事なクルマなら入るべき。あらゆる損害を広くカバーするタイプと、補償の範囲が狭くて保険料が割安なタイプがあります。どんな事故にあうかわからないことを考えると、広くカバーするタイプがおすすめ。

ちなみに車両保険には「免責」というものがあります。たとえば「10万円までは自己負担します」と条件をつけることで、保険料が安くなる仕組みです。その上限金額を「免責金額」といいます。個人的には、ここでケチるのは得策ではないと思いますので、免責はゼロにするのがおすすめ。

その他におすすめしたいのは「弁護士特約」。被害者になった場合、人身部分については保険会社は示談交渉を代わりに行ってくれません。プロを相手に自ら交渉を行うのは無謀なので弁護士を雇うことになるでしょうが、費用はバカになりません。この費用を補償してくれるのが弁護士特約です。

保険会社はどう選べばいいの?

編集部:自動車保険の会社もたくさんあります。どんなことに注意して選べばいいですか?

Aさん:最近は「保険料」にばかり焦点を当てたCMも多いですが、保険選びで一番大事なのは「事故対応力」です。だって、何かあったときのための保険なんだから。そのときにどう対応してくれるかが肝心です。

編集部:かに最近、インターネットや電話で契約できる、いわゆる通販系の自動車保険のCMを見ない日はありません。ほんとにあんなに安いんですか?

Aさん:CMで謳われている通りの条件でその値段、ということです。それに釣られて「この会社が一番安い!」と決めるのは早とちり。保険料は等級や年齢などの条件や、組み合わせによって変わるんです。どの保険会社が高い・安いということは一概に言えません。自分の条件でいくらなのかを見て判断するべき。また、通販系は「代理店マージンがない分オトク!」ということをいいますが、代理店系の人間からは「それだけ宣伝費かけていたら同じだろう」という声も。賢い消費者なら表面上の情報に騙されることなく、自分自身で判断するでしょうけどね。

編集部:とはいえ、自動車保険なんてわからないことだらけだし、調べるのも面倒。それこそ値段と会社の知名度で判断して決めちゃいそうです。

Aさん:うーん。でも、いざ何かあったときにイヤな思いをするのはアナタなんだから。事故で人生が変わる人もいる。そのとき、金銭的な不安が少なければせめてもの救いになります。真剣に選ばないと。

編集部:そうですね〜。では判断材料を知りたいのですが、Aさんが一番大事という「事故対応力」は、何を見ればわかりますか?

Aさん:やはり事故は直後の対応が肝心なので、いかにスピーディーな対応をしてくれるかが肝です。その一つの判断材料は対応時間。ほとんどすべての会社が土日にも事故受付を行いますが、実際の対応は社員が出社する翌週の月曜日以降、というケースも多いです。

編集部:え!そんなことが?!

Aさん:ざらにありますよ。あとは誠意を持ってスピーディーに対応してくれる担当者がいることも大事です。5年ぐらい前の話なので今は改善されているかもしれませんが、事故相手の某保険会社の担当者から、連絡が来ないということがありました。ふつうはスピーディーに解決に進めるために加害者側から連絡をしてくるはずなのに。お客様からの満足度が高い会社…と謳っていましたが「どこが?」と思いました。

編集部:知れば知るほど、宣伝内容が信じられなくなる…。

Aさん:困ったときに親身になってくれる担当者がいれば、納得度も違うはず。担当者がちゃんとしていない人なら、別に担当者に代えてもらいましょう。「人」は重要です。

編集部:確かに新人さんだと不安だったりします。

Aさん:イヤ、新人さんだったら逆に一生懸命やってくれるんじゃないのかな? 保険の過失割合は過去の判例をもとに決まるから、担当者の力で示談金が上下するという心配はないし。保険会社の評判というのも一概に言えず、結局は人次第なので、やはり実際に担当者の話を聞いて、自分で納得して決めるのが一番です。

あなたはモンスターカスタマーになっていない?

編集部:Aさんは以前、保険会社の代理店に勤めていたんですよね。これまでに出会った「困ったお客さん」ってどんな人がいますか?

Aさん:うーん。いろいろいますが、誠意のない人は困りますね。自分に非があるのに相手に謝罪しない人。それによって増額請求されたりして揉めることも多いんです。私が謝って済むならいくらでも謝るけど、本人にその姿勢がないとね…。あと、相手の人をそっちのけで自分の車を心配する人。これも揉める…。

編集部:あぁ〜。確かに“誠意”に関しては、弁護士の谷原さんも「お見舞いだけは人任せにしてはダメ!何度でも、相手に断られても行きましょう」とおっしゃっていました。

Aさん:大事なことです。あと盗難偽装をする人もいましたね。言っていることが矛盾しているからすぐバレるんですけどね。あと、事故で車が損傷したときに、ついでに事故以前からあった損傷も直して一緒に請求してくる人。これもアジャスターと呼ばれる査定のプロが見れば一発でわかる

編集部:うわぁ、そんな人が。一方、お客さんとの心温まる交流もあったりするんですか?

Aさん:感謝して手紙をくださる方もいましたよ。「良くやって当たり前」と思われることの多い仕事ですから、「ありがとう」と言っていただけるのは嬉しいです。あとは聞いた話では、事故で感情的になって「電話では話にならない!」と言って出向いて来られたお客さまが、担当者の女性に一目ぼれして丸く収まったという逸話を聞いたことがありますが…。

編集部:まさにさまざまな人間模様が凝縮された世界ですね!

Aさん:とにかくいろんな人がいて面白かったですよ。

編集部:Aさん、いろんなお話を聞かせていただいて、ありがとうございました!

ビル・ゲイツを轢いたらどうなる?!

それにしても自動車保険って複雑でわかりづらい。そこで、これまでに出た話以外に「よくある勘違い」についてまとめてみました。

●もらえると思っていたのに…編
・入院時の個室料金/通勤時のタクシー代
どうしても必要な理由がなければ認められません。わかりやすくいうと「ツライ」というレベルでは認定されないのです。たとえば入院時の部屋は、重傷・感染の危険がある・個室しか空いてしない等の理由がなければ基本は大部屋。タクシーも骨折レベルならOKです。

・大切なペットが事故に!損害賠償金ってこれだけ?
残念ながらペットの事故は「物損扱い」になり、精神的被害は考慮されません。ペットが物だなんて、ひどい話ですが…。話はそれますが、ペットが交通事故の加害者になることもあります。たとえば急に道に飛び出した犬が原因で事故にあってしまった場合、飼い主が加害者として損害賠償責任を問われる場合があります。

・医師の指示に従わなかったら自分の過失に?
勝手に通院をやめたり退院したり、医師の指示に従わなかった結果受けた損害は、あなたの「過失」とされ、補償はされません。

・実家の車を運転中に事故に。保険が適用されなかった!
被保険者の年齢制限を付けることで保険料が安くなる自動車保険があります。実家の車がそのような契約をしている場合は要注意。運転する前に必ず確認しましょう。

●オマケ編
・縦列駐車で前後の2台にぶつかった
2回の事故とカウントされます。自動車保険の等級も、残念ながら2回分下がります…。

・事故で双方の意見が食い違うとどうなる?
どちらも「信号は青だった」と言う場合は多いです。事実であれば主張し続けることが大事。最終的には五分五分で解決することも。基本的には証拠が全てなので、事故直後すぐに目撃者を確保するか、映像を記録するドライブレコーダーを搭載して備えておくという手もあるでしょう。
*ドライブレコーダー商品例

・ビル・ゲイツを轢いたらどうなる?
収入補償は無制限に発生するので大変なことに。そんなときのためにも対人・対物賠償保険は無制限に設定すべきなのです。

【次を読む】5章:事故防止のこと - 事故にあいやすい人って?-

もくじ

1章:交通事故で負うもの・失うもの

2章:事故発生時のこと - 直後の対応が肝心!-
・事故発生時のTODO
・事故現場でのタブー

3章:事故後のこと - 示談で解決が王道?もらえるお金は?-
・解決までの流れ
・示談とは
・意外に困る事故後の生活
・交通事故で使える保険
・交通事故でもらえるお金

4章:自動車保険のこと - 元販売員が業界のウラを暴く?!-
・どんな保険に入るべき?
・保険会社はどう選べばいいの?
・あなたはモンスターカスタマーになっていない?
・ビル・ゲイツを轢いたらどうなる?!

5章:事故防止のこと - 事故にあいやすい人って?-
・事故防止のためにできること
・意外に知られていないこと

監修者プロフィール(4章)

Aさん
保険業界に身を置くベテラン業界人。以前は保険会社の代理店に勤めていたことも。言葉は鋭いがハートはあったかい頼れるオジサン。