- 現在の勢力図とレッドブルが強い理由
- 下位チームの楽しみ方、日本人ドライバー裏話など
新興3チーム(ロータス/HRT/ヴァージン)間の争いを見るのも楽しいですよ。序盤ではロータスが抜きん出ていましたが、差が埋まってきました。モナコGPではトゥルーリがチャンドックをオーバーテイクしようとしてクラッシュになりましたね。入賞圏外でもレース順位と回数は、後にシーズン通してのランキングに影響するので、トゥルーリとしては行くべきところだったんです。
戦えないクルマに乗るということは、成績がふるわず評価を下げてしまいやすく、ドライバーとしてのキャリアに傷をつけることにもなります。若いドライバーであれば、どこかでいいところを見せれば上位チームに引き抜いてもらえる可能性があります。逆に、ベテランで「できてあたりまえ」と見られがちなトゥルーリは評価を下げやすい恐れがあります。トゥルーリは人一倍繊細にマシンの状況を感じとれる人なので、予想以上に扱いにくいクルマで落胆しているようですね。一方でチームメイトのコバライネンは、ハミルトンの影に隠れていたマクラーレン時代とは表情が変わり、まだ生き生きとしています。
ヴァージンのディグラッシはGP2のときからベテランのような走りをする人です。シーズン通してのポイントを考えて走れる人。レース巧者です。トヨタで活躍したグロックに匹敵する走りを見せています。ヴァージンとしては、人選は大正解でしたが、新規参入3チームに共通なギアボックスをはじめとして、弱点がいくつかあるクルマを何とかしないといけませんね。
さらにヒスパニアはもっとひどい状態。開幕戦で車を組み立てていましたからね。それにダラーラにマシンを委託したのも響きましたね。ダラーラは優れたレーシングカーメーカーですが、量産のレーシングカーとF1では、技術格差があるのです。テスト走行ができなかったというのも苦戦に繋がっています。ただ、テストドライバーに山本左近とクリスチャン・クリエンを入れたのは正解。左近は金曜日のフリー走行で一定のタイムを出し続けるなどテストドライブに徹して、エンジニアに有効なデータをかなり提供したはずです。でも、本当は左近にもクリエンにも戦闘力のあるマシンで戦わせてあげたいですね。
ペトロフやアルグエルスアリは、トルコGPで終盤にファステストラップを叩き出しました。「ラバーが乗ってきた終盤で、オプション(スーパーソフト)タイヤだったから、そりゃ出せるだろう」という人もいますが、レース終盤は体力だって厳しいはずです。「ここで一発いいところを見せてやろう、タダでは転ばないぞ」というドライバーの勝負意欲が見えたと僕は思っています。
ドライバーだけでなくスタッフの人間模様を見るのも楽しいですよ。たとえばフォースインディアを追われるようにして辞めて、ロータスのテクニカル・ディレクターに就任したマイク・ガスコインは、フォースインディアを負かそうと躍起になっていると思います。去年イギリスで会った時に、「オレにはやり残した仕事があるんだ」と言ってました。先日もフォースインディアから人を引き抜いてスタッフを補強しましたね。最終的には、トヨタ、フォースインディアでは果たせなかった優勝を夢みているのでしょう。自分が生まれ育った町の名門チームであこがれだった「ロータス」を復活させて。
また、ヴァージンレーシングのテクニカル・ディレクターのニック・ワース。アンドレア・モーダ、シムテック、ベネトンと、いずれも成績がよくないチームを歴任し、不完全燃焼のまま一度はF1を離れた人です。アメリカン・ルマンではチャンピオンを獲りましたが、それでもF1に戻ってきたというのは、やはり自分にとって「やり残した仕事」なんでしょうね。きっとF1で見返したいと思っているのでしょう。
新規参入チームや下位チームでも、それぞれに情熱と戦いがあると思います。でも、ドライバーのキャリアを考えると「できることなら、乗ってはいけないチーム」なのかもしれません。それでも戦うドライバーは凄いんですよ。想像してみてください。アルペンスキーの滑降大会に1人だけスキー板が短かったり、ストックの長さが左右違ったり、雪質に全然合わないワックスが塗られたまま参戦する自分を…。どんなに怖くて悔しいことかと思います。ブレーキングやコーナーでステアリングがブレブレになりながらも、信頼を置けないマシンに自らを託して勝負に向かわざるをえない。そんな、彼らを見ていると胸を打たれます。
単に予選や決勝の順位表だけを見ているだけでは、誤解することもあります。ライブタイミングでも、FIAのホームページにある各セッションのドライバーごとの全ラップタイム表でも、ラップごとにどういう走りとタイムの出し方をしているのだろうとかよく見てみると、そのドライバーやチームの光るところがかならず見えてくるはずです。そして、数少ないシーンでも、その走りを映像で見ると、もっと良いところが見えるはずです。たとえば、予選Q1の序盤の下位チームからアタックに入るシーンもそうです。
若手発掘が上手かった故ケン・ティレルからこう教わりました。「才能あるドライバーを見出す秘訣は、レースを見て、走りをよく見ることだよ」と。
彼は速い。そしてファイターです。それだけでなく相手を精神的に追い詰めるようなインテリジェントな戦い方ができるドライバー。トルコGPでもタイヤの限界を探りながらアロンソに上手にプレッシャーをかけていましたね。もし一本調子で攻めていたら、終盤にタイヤがダメになって10位入賞は消えていたはずです。このうまさは、昨年のGP2でも見せていました。チームの戦力大幅低下で苦戦を強いられたので順位表では芳しくありませでしたが、レースでは光るところがかなり見えていたのです。
攻めるときはラップタイムを上げて、相手がだれであろうと徹底的に攻める。守るときはバトンをして「ヤツはクレイジーだ」と言わせしめるぐらい守り抜く。トップドライバーに匹敵する戦い方ができる人です。
08年のフランスGPの前座で行われたユーロF3では、トップで逃げながらうまくペース配分して、追いすがろうと躍起の地元グロジャンを自滅的ミスに誘い込み、優勝しました。そのとき、「インテリジェントなレースだったね」と、可夢偉に言ったら「インテリジェントってなんですか~?」って笑わしてくれましたっけ。英語のインタビューでもセンスの良いユーモアを混ぜながら話せる人なので、チーム広報にとっても頼もしい存在でしょう。
もし僕がドライバーを選べる立場だったら、アルグエルスアリやディグラッシらに並んで優先的に声をかけたい若手リストのなかでも筆頭に入れますね。フェラーリの創始者エンツォさんが今も生きていたら、ファイター好きだから可夢偉に声をかけていたんじゃないかなと思います。
余談ですがロシア(ペトロフ)とポーランド(クビサ)のドライバーが同じチームというのも歴史的な皮肉ですよね。この二国間の複雑な歴史や感情は映画「カティンの森」を見たらよくわかると思います。おととしクビサとポーランド映画の話題になり、アンジェイ・ワイダ監督の映画作品が好きでよく観たことを話したら、以来僕に仲間意識をもってくれたようで、その後よく笑顔で話しかけてくれるようになりました。
F1の前身であるグランプリは1906年にフランスで始まりましたが、現在に至るまで2度大きな中断がありました。それは世界大戦でした。F1は激しい戦いの場でもあるけど、いろいろな国の人が同じ場所に集まって仲間意識を共有しあえる場でもあります。チームメンバーとして転戦しているときから、F1はまるで平和のバロメーターのようだなと感じていました。F1が世界中でより広まることは、理解と友好関係にもつながり、よい事だなと思います。そういう意味では、バーニー・エクレストンとF1にノーベル平和賞をあげても・・・・とすら思ってしまいます。
この前のゴールデンウィークに、アメリカのカンザスシティに行ってきました。そこで、今季のインディカー初のオーバルレースがありました。佐藤琢磨にとって人生初のオーバルレース挑戦で、初日は「ハイレーン(高速側のラインで外壁が近い)を走るのはちょっと怖いなあ」と言っていたのですが、予選から高速レーンをガンガン走ってました。決勝はもらいクラッシュでリタイヤでしたが、初のオーバルながらコース幅をめいっぱい使いながら沢山オーバーテイクをして4番手争いをしていました。
オーバルのレースは一見とても単調なレースのようですが、すごく奥が深いのです。前のクルマの乱気流による影響はF1よりも複雑で、オーバーテイクをしかけるには3つも4つも手前のコーナーからか、1周前から完璧な位置取りをしないといけないほどです。気温や気圧が少し変わっただけでも、セットアップや走りに大きな影響が出るほどなのです。琢磨は初レースのなかで、かなりのことを学びとって、実践していました。
続くインディ500では、途中ピットストップのミスでドライブスルーを受け、これが響いての20位でしたが、途中6番手も走りましたし、決勝のベストラップでは7位につけました。(96周目の平均時速223.255マイル=平均時速359.293キロ!)これは、なかなかの内容です。オーバルで勝つには経験が必要と言われますが、頭が良い琢磨のことですから他の人よりも早く学習をして結果を出してくるでしょう。
琢磨がF1にいないのは残念ですが、インディカーで心から楽しそうに戦っている姿をみると、良い選択だったんだなと思います。琢磨と武藤英紀のインディカー日本人勢は、今年かなり良さそうです。
そうそう、今年のインディカーには、5人の女性ドライバーが参戦しています。史上初の女性によるポールポジションを獲得したサラ・フィッシャーや史上初の女性による優勝を果たしたダニカ・パトリックなど、性別に関係ない対等なバトルをしています。インディカーもまた独自の楽しさがありますよ。










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